一宮市のホームページには、「平成23年4月から愛知県と西尾張地方の9市町村で共同して市税等の滞納整理を行う『専門組織』として、“督促など市からの催告に応じない人”、“納税の相談や連絡をしない人”、“納税の相談をしても約束を守らない人”、“滞納額が高額な人”、“短期間で滞納の解消見込みのない人”などは徴収事務を市から機構に移管し、財産を強制的に調査して差し押さえや公売の処分を強力に行う。また、滞納者の自宅などを強制的に捜索することも行う。」とされています。
また機構の「運営要領」では、「基本方針」として
・差押えを前提とした納税折衝
・少額分納には応じない
などきわめて厳しい姿勢が明記されています。
しかし、ここにはいくつかの問題点と曖昧さがあると思います。
上記のような機構の方針は、税金を払えるのに払わないという滞納者には必要な措置かもしれませんが、収入減や生活苦で「払いたくても払えない」という事情のある納税者には不適切です。
市町村から機構に100件移管すると一律に決めたため、“悪質”な滞納者ばかりでなく「払いたくても払えない」という事情のある納税者まで機構に送られ、さまざまな問題が起きています。
実際に、「市役所で相談して約束通り分納していたのに機構に送られた」という方がいます。 納税者の実情から判断するのではなく、いわばノルマとして「“悪質”滞納者を100人つくっている」という状況になっているとすれば、まさに本末転倒といわなければなりません。
もともと払いたくても払えないという納税者に対して「一括で払え」、「3回で払え」とは無理な話です。 そんなことは機構だって分かっているはず。 しかし、そんな訴えには耳を貸さず「払わなければ差し押さえ」と脅され「どこかから借りてでも払いなさい」と迫られる・・・こんなことがあれば公権力による脅迫としか言いようがありません。
払いたくても払えないという納税者にとって差し押さえられる財産とは、毎月の給料や売掛金などしかありません。 給料はもちろん、自営業者の売掛金も余裕のあるお金ではなく毎月の仕入先の支払いや従業員の給料・そして生活費でみんな消えていくものです。 これが差し押さえられてしまえば、従業員や仕入先・家族はいったいどうやって生きていけばいいのでしょう? まるで役所が失業者を作っている様なものではないでしょうか?
借りて払うというのも、納税者が自発的に努力するのならばともかく、税務当局が強要することは許されません。 「借りて払うか、さもなければ差し押さえ」と迫るなどの行為は、明らかに行き過ぎです。
実際に機構に呼び出された方の話では「毎月これだけ払うと説明しても『3回か、待っても1年で完納しなければ差し押さえ』と聞く耳を持ってもらえなかった」というのがほぼ共通しています。 また、「どうせ『払えない』という言い訳に来たんだろう」「家や車のローンがあるから払えないというのは認められない。あくまで納税が優先だ」などという発言も聞かれます。
しかし、国税庁の「納税の猶予等の取扱要領」では、妥当と認められる範囲の生計費や、生活や事業継続のために不可欠な返済は納付能力から除かれると明記しています。 贅沢で買った外車ならともかく、事業や日常生活で必要な車の費用は当然認められるべきです。
しかし機構は納税者と話をする際、頑強に納税者のつきそいを一切認めず、「密室」で納税者一人きりでないと話に応じません。 そうなると納税者は、知識もなく“差し押さえ”をちらつかされて話をされるので、有効な反論をするのは難しいのが実態です。 なかには「滞納している人は犯罪者。あなたは犯罪者だ。」と侮辱されたと訴える納税者もいますが、密室での発言のため機構側に「そんな発言はしていない」と否定され、うやむやにされてしまいます。 もし機構の「密室」対応が、自分たちの不当な言動をごまかしたり納税者の正当な反論をさせないための措置だとすれば恐ろしいことです。
こんな大変恐ろしそうな機構ですが、実はこの機構には何の法的な権限もありません。
なぜなら機構は法律や条例などを根拠として設置された機関ではありません。 関係自治体も認めるとおり「任意団体」です。 自治体職員が「徴税について勉強する場所」のようなものなのです。 機構が発行する文書には発行者として必ず「○○市長」など自治体の首長名が記載されています。 滞納処分も機構ではなく、あくまで市町村長名で行われます。 だから、一宮市などのホームページで、あたかも機構が滞納処分を行う組織であるかのように記載しているのは、不正確と言わなければなりません。
問題は、これが責任の所在を曖昧にする隠れ蓑として利用されていることです。 機構の不当な徴税実態を示して愛知県に是正を求めると「機構は任意組織であり、その責任は市町村にある」と逃げます。 それでは、と市町村に行くと「機構に移管した事案には市町村は関わらない」と逃げます。 そして機構はと責任も権限もないのをいいことに(?)批判を受け付けず暴走しています。
こんないい加減な滞納処分や脅しで、もし何かあったらどうするのでしょうか? 堂々と(実際の)責任の所在すら明らかにできないということが、機構の正統性の無さを浮き彫りにしています。
滞納整理機構に移管される前に滞納が解消できるといいのですが、いざ移管されてしまったら本当に困ります。 民商は、滞納者が正当な理由をもって市町村と交渉するべきであり、同時に市町村は適正な徴税業務を行なうことが大切であると考えます。
この対策は、“こうすれば機構が差押えをしなくなる”という絶対的なものではありませんが、自分の商売や生活を守るために自信をもって市町村と交渉する時にはとても大事なことです。
まず現状のお金の流れを見つめなおし、改善すべきことは改善して納付計画を立てます。 その際に大事なことは、“これ以上滞納を増やさない”こと。 今後発生する住民税や国保税・固定資産税の納期と金額を確認してそれを織り込んで納付計画を立てます。 一生懸命に過去の滞納を払っていても、その一方で新たな滞納が発生するようでは「納税の誠意」が疑われてしまいます。
納付計画ができたらわかりやすい表にして、市町村や機構に提示できるようにしましょう。
納付計画ができたら早速交渉しますが、前ページで言ったように機構が聞く耳を持たないような対応しかしない場合は、それをただす責任は市町村にあります。
もしあなたが「払う意思があるが一括では払えない。分納を認めてもらえれば一生懸命に納税して滞納解消したい」というのであれば、一宮市に自らの意思と計画を示して機構の対応の是正を求めましょう。
そもそも機構は、“滞納処分を前提とした納税折衝”、“少額分納に応じない”というのが基本方針です。 それにふさわしくない事案は市町村が対応すべきです。 ところが一宮市は、「機構に送った事案は一宮市では相談に応じない」と頑なに拒否します。 ここは最大の頑張りどころ。一宮市の責任を明確にして交渉しましょう。
そもそも、市町村であれ、機構であれ、“生存権を脅かす徴税はあってはならない”、“納税者の実情に即した対応を取る”というのが国会等で公式に表明された政府の方針です。(例えば平成22.3.24 参議院総務委員会 山下議員の質疑) そしてちゃんと生活し営業を続けてこそ納税ができ、市町村の財政にもプラスになるはずなのです。
国税の『納税の猶予』にあたるのが、地方税法第15条『徴収の猶予』です。 災害や病気・著しい損失やそれに類する事実があったため払えないという場合に、納税者の側から申請することができます。
申請先は市町村長であり、審査するのは市町村の責任です。 しかし、市町村の「機構送り」という無責任さが一段と進んだのか、徴収の猶予の審査や申請すら機構に丸投げするという姿勢が見られますが、これはとんでもない話です。 徴収の猶予は法律で定められた納税者の権利であり、市町村が責任放棄することは許されません。
さらに機構の「運営要領」には、機構の業務として「徴収猶予の審査」は一切触れられていません。 運営要領では、“徴収の猶予該当者は移管しない”旨がありますが、そのような権利は多くの納税者はよく分からないのが実態です。 市町村は説明しているとのことですが、申請書を手渡したり、書き方を教えるといった丁寧な説明はされていません。
市町村が課税権に基づいて課税するのですから、責任をもって申請書を窓口で受け取り、適正に審査するのが当然ではないでしょうか?
営業の見直しをするにしても、機構や市町村と交渉するにしても、一人で悩むのでなく民商にご相談ください。
民商には一緒にがんばっている仲間がいっぱいいます。